《30》【僕のジョボ女簿日誌】 「第一話 学園(エデン)は檻の中」 (6)ー4 光景
- 2017/03/22
- 03:33
「は、はい……え〜と、まずは『いじめの実態を調査』します。本当にあった場合は、それが個人かグループかを把握します。その結果をすぐに、校長先生と教頭先生に報告して、指導を仰ぎます」
僕は頭の中のテキストを開き、プロセスの手順を伝えた。
「素晴らしい。素晴らしいくらい教科書通りの初期対応ね。60点」
彼女はスプーンを指揮棒のように振りつつ、僕を諭す。
「まずどうやって〝いじめの調査〟をするつもり? 思春期の子供は特に、被害者自身がいじめの報告することはなくなってくるのよ。彼女みたいなプライドの高い女の子ともなってくると特にね」
彼女の言う通りだ。小学生くらいの年頃なら、児童本人が教師の元にいじめを知らせてくれることが多いが、高校生ともなってくると事実を認めようとしなくなってくる。報復を恐れてか、プライドが邪魔をするのか。
「ま、調査の方は任せておいて。もう敷島先生に話はつけてあるから」
その言葉に僕も伊庭先生も驚きの表情を隠せなかった。いつの間にやら。
「清廉潔白を謳い文句をしてるけど、この学校にもちゃんと『裏サイト』は存在しているのよ。教頭は知識がないだけ。まずは〝目に見えないいじめ〟から探っていきましょう」
彼女の考えは、理にかなっていた。
ネットの発展に伴いいじめの形態が変わりつつあるのに、頭の固い大人達はその変化に対応出来ないのが現状なのだ。しかし、そのためにネットのエキスパートまで抱き込むとは。
「あなた達がすべきことは、〝心配していること〟をちゃんと彼女に伝えることね。間違っても、自分達で解決しようなんて考えないこと。彼女のプライドが傷付くだけだし、本当にいじめられていたら逆にエスカレートするかも。温かく見守るのが最善の策よ」
やはり矢行先生に同席してもらい正解だった。この学校で一番生徒に近く、また機転が利くのは彼女だ。他の先生方も経験こそ豊富だが、やはり伝統校の弊害か、上司の顔色に一喜一憂しやすいところがある。
「ホラ、くよくよしない。先生までそんなだと、生徒まで暗くなるーー」
「矢行先生。やっぱり聞いていいですか?」
話をまとめようとした彼女に、伊庭先生は手を挙げた。
「どうして私達に……いえ、築月先生に肩入れするんですか。同じ学校の後輩だから、だけでは片付けられない、何か理由があるように思えて仕方ないんです」
彼女は唇をへの字に曲げ、凛々しい表情で尋ねる。隣に座る僕が見惚れてしまう程の。
「肩入れねぇ。学校の問題を何とかしたいと思うのは当然のことじゃない、教師として。……でもそうねぇ、一つ言えるとしたらーー」
彼女は僕の方をチラリと見ると、屈託のない笑みを浮かべた。
この顔はよく知ってる。〝僕〟にとって何か良くないことが起きる前触れだ。
「私も彼に弱みを握られているから、かな?」
彼女は含みを持たせるように言った。
「……え?」「……え!?」
僕らは声が裏返り、思わずハモってしまった。
「あら、仲がお宜しいこと。その調子で頑張ってね。私は桃瀬さんの様子を見てくるわ」
伊庭先生に言葉の意図を聞かれる前に、皺の寄った白衣を翻して彼女は部屋を出て行った。
「……」
そして僕はというとーー彼女の言葉で〝ある〟光景がフラッシュバックするのを抑え切れなかった。
◆◆
『……み、見ないで……ルーキー君……、私としたことが……何て……何てことだ……』
『す、すまない……このことは、誰にも言わないでくれ……特に志美子だけには……』
『あの……何度もゴメン……身体を支えてくれない? その、お尻が気持ち悪くて……』
『ゴメンね……汚いモノを触らせちゃって……、本当にゴメンね……』
『……この下着は、君にあげるよ。その代わりに……今日のことは誰にも言わないでくれ……何でもしてあげるから……』
◆◆
「ーー築月先生……? 築月先生!?」
僕は頭の中のテキストを開き、プロセスの手順を伝えた。
「素晴らしい。素晴らしいくらい教科書通りの初期対応ね。60点」
彼女はスプーンを指揮棒のように振りつつ、僕を諭す。
「まずどうやって〝いじめの調査〟をするつもり? 思春期の子供は特に、被害者自身がいじめの報告することはなくなってくるのよ。彼女みたいなプライドの高い女の子ともなってくると特にね」
彼女の言う通りだ。小学生くらいの年頃なら、児童本人が教師の元にいじめを知らせてくれることが多いが、高校生ともなってくると事実を認めようとしなくなってくる。報復を恐れてか、プライドが邪魔をするのか。
「ま、調査の方は任せておいて。もう敷島先生に話はつけてあるから」
その言葉に僕も伊庭先生も驚きの表情を隠せなかった。いつの間にやら。
「清廉潔白を謳い文句をしてるけど、この学校にもちゃんと『裏サイト』は存在しているのよ。教頭は知識がないだけ。まずは〝目に見えないいじめ〟から探っていきましょう」
彼女の考えは、理にかなっていた。
ネットの発展に伴いいじめの形態が変わりつつあるのに、頭の固い大人達はその変化に対応出来ないのが現状なのだ。しかし、そのためにネットのエキスパートまで抱き込むとは。
「あなた達がすべきことは、〝心配していること〟をちゃんと彼女に伝えることね。間違っても、自分達で解決しようなんて考えないこと。彼女のプライドが傷付くだけだし、本当にいじめられていたら逆にエスカレートするかも。温かく見守るのが最善の策よ」
やはり矢行先生に同席してもらい正解だった。この学校で一番生徒に近く、また機転が利くのは彼女だ。他の先生方も経験こそ豊富だが、やはり伝統校の弊害か、上司の顔色に一喜一憂しやすいところがある。
「ホラ、くよくよしない。先生までそんなだと、生徒まで暗くなるーー」
「矢行先生。やっぱり聞いていいですか?」
話をまとめようとした彼女に、伊庭先生は手を挙げた。
「どうして私達に……いえ、築月先生に肩入れするんですか。同じ学校の後輩だから、だけでは片付けられない、何か理由があるように思えて仕方ないんです」
彼女は唇をへの字に曲げ、凛々しい表情で尋ねる。隣に座る僕が見惚れてしまう程の。
「肩入れねぇ。学校の問題を何とかしたいと思うのは当然のことじゃない、教師として。……でもそうねぇ、一つ言えるとしたらーー」
彼女は僕の方をチラリと見ると、屈託のない笑みを浮かべた。
この顔はよく知ってる。〝僕〟にとって何か良くないことが起きる前触れだ。
「私も彼に弱みを握られているから、かな?」
彼女は含みを持たせるように言った。
「……え?」「……え!?」
僕らは声が裏返り、思わずハモってしまった。
「あら、仲がお宜しいこと。その調子で頑張ってね。私は桃瀬さんの様子を見てくるわ」
伊庭先生に言葉の意図を聞かれる前に、皺の寄った白衣を翻して彼女は部屋を出て行った。
「……」
そして僕はというとーー彼女の言葉で〝ある〟光景がフラッシュバックするのを抑え切れなかった。
◆◆
『……み、見ないで……ルーキー君……、私としたことが……何て……何てことだ……』
『す、すまない……このことは、誰にも言わないでくれ……特に志美子だけには……』
『あの……何度もゴメン……身体を支えてくれない? その、お尻が気持ち悪くて……』
『ゴメンね……汚いモノを触らせちゃって……、本当にゴメンね……』
『……この下着は、君にあげるよ。その代わりに……今日のことは誰にも言わないでくれ……何でもしてあげるから……』
◆◆
「ーー築月先生……? 築月先生!?」