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《31》【僕のジョボ女簿日誌】 「第一話 学園(エデン)は檻の中」 (6)ー5 記憶

声をかけられていることに気付き、僕はハッと顔を上げた。伊庭先生が不審そうに僕の顔を覗き込んでいた。

「さっきのこと、どういうことですか?」

(…………)

僕は「さぁ、何のことか僕には……」と、意味が分からない素振りで答えた。彼女は怪しんでいたが、ひとまず納得してくれた。

◆◆

そうこうしているうちに、今日の授業は全て終了。HPを終えた生徒達は、ある者は部活動に勤しみに、ある者は机の上にノートを広げ勉学に取り組み、またある者は今日の疲れを癒すために帰路に着いた。
しかし、どことなく皆がまとっている空気は重い。やはり朝の出来事が尾を引いているのだろうか。
果たしてこの中にいじめの加害者はいるのだろうか。頭の中のテキストを開けば、〝ただ見ているだけも、加害者と同じ〟という項目が出てくる。それを信じるならば、ここにいる全員が怪しく思えてくる。結局一度も授業に出なかった桃瀬さんのことを、話題にしているのは一人もいなかった(田代さんは、気にしている素振りを見せていたが、口に出すのは憚れているような感じだった)。
しかし、ここで僕の口から彼女の名前を出すことも、加害者を探そうなんてことも出来なかった。「えこひいきしている」なんて認識されてはいけない。あくまでも、担任は〝中立〟でいなくてはいけない。
とりあえずHRの終わりに、〝クラスの中で何か気になることがあれば、相談してほしい〟と話しておいたが、果たしてどれほどの効果があるのか。
伊庭先生はさっさと出て行った。おそらく保健室だろう。真面目な彼女のことだ、矢行先生から言われたことをすぐにでも実戦に移そうとしているのだ。
そして僕はというと、校舎の裏庭にある花壇に来ていた。植えられているのは白いツツジ。西日の当たらない半日陰の場所が適している。

(ツツジか……)

元々人付き合いの苦手な僕にとって、人通りの少ないここは僕のお気に入りの場所だった。

(操華ちゃん……)

右手にジョウロを持ちながら、一人の女の子の名前を思い浮かべる僕。今そんなことを考えている場合ではないのだが、目の前の花を見ていると自然とそうなってしまうのだ。
この花壇の世話役は僕ではない。しかし、誰かが水を撒いている姿を見たことがなく、気付けば自分がやるようになっていた。誰に頼まれたわけでもない。しかし、自分がやってはいけない理由もない。

(それにしても、どうして今になってあんな夢を……)

どうして今そんなことを考えているのか分からないが、僕は先日見た夢を思い返していた。

ーー幼き身体。幼き日の記憶。それは、幼さ故の過ち。

人にはそれぞれ、消したい記憶の一つや二つある。僕にとっての、まさに〝その日〟の出来事をそのまま夢に見てしまったのだ。
どうして今になって。僕にとってはもう、昔の出来事のはずなのに。

(今はそれどころじゃないのにな……)

秋風に揺れるツツジをボウッと眺めながら、唯一絞り出せた言葉はそれだけだった。

「桃瀬さんの心が分かれば、話は早いのに」

今度は思わず口から零れた。心の叫びに近いものだったのかも。

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プロフィール

Author:屈辱の湖
周りと違う僕はおかしいのだろうか。
こんな性癖誰にも理解されないのではないか。
どうやって新しいオカズを手に入れればいいのか。
分からぬまま悶々と欲望を募らせていましたがーーとうとう見つけました。僕のたぎる思いを満たすことが出来るのは、

〝少女のおもらし〟だと。

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