彼女の考えは、なるほど的を得ていた。
ただでさえ彼女はあの事件を乗り越え、一歩を踏み始めたばかりなのだ。そんな中自分の下着が、しかも過去のしくじりの戦利品ともなれば計り知れないショックを感じるのは必須だ。ここ数週間で、彼女と長く向き合ってきた者なら皆同じ考えのはず。
「このこと、誰かに言ったんですか?」
「校長には話したわ。後はあなただけよ。だから他言無用で、って言ったの」
つまり三人だけか。……リンコには言ってないのだろうか。
「彼女の正義には柔軟性がないのよね。目的を果たすために、誰かを傷付けることになったとしても、彼女はは自分を貫こうとするわ。今回はそれが仇になる危険性がある。だから、彼女には伝えないつもり」
僕は彼女の言わんとすることにいまひとつピンときていないが、半分くらいは理解出来そうな気がした。
リンコは正義感が強く真っ直ぐな女性だ。それ故、我が強く自分の主張を曲げようなんて絶対に思わない。大学時代もその融通の利かなさから友人も少なかったらしい。
目的を果たすことが誰かを救う、ということばかりではないということを知らないのだ。今回の場合、もしこれが本当に盗難事件で、犯人によっては桃瀬さんを傷付けることになるかもしれない。だからこそ、いざというときに周りが見えなくなることがあるリンコには、この事実を明かさないつもりなのか。
……そんなことを考えてると、彼女の足が止まった。釣られて僕も立ち止まる。
「私としては、向こうよりも早く犯人の目星を付けておきたいの。難しいかもしれないけど。そのためには、あらゆる可能性を考えておかないとね」
金魚のフンのように彼女の跡を追い掛けていた僕が辿り着いたのは、正門を入ってすぐの所に建てられてある警備員室。PTA並びに学園支援者より多大な援助を受け、昨年竣工したばかりの建物。ガラス張りとなっており、中には監視カメラのモニターも完備してある。
常駐警備員は確か二人。一人は、中畑という気の良さそうな男性。すでに60歳を越えているらしく、一度だけ話したときに、年金が支給される65歳まで働く予定だとか。
そしてもう一人は、確か若い女性だ。何度かチラッと見たことはあるが、こちらの方は僕も詳しくは知らない。