《94》【僕のジョボ女簿日誌】 「第二話 姉弟・接吻(シスター・キス)」(3)ー3 年長
- 2017/07/16
- 00:41
「じゃあおたくのクラスも……?」
「そうなんですよ。HR中に騒ぎになってて……」
「私のとこもです。これってやっぱり伝えるべきですよね……?」
漆金学園の職員室は、従来のそれよりも解放感がある造りとなっており、机の配置は教室で給食を食べるときに班同士で机を向かいあわせるように並べたものに近い。その、主に一年生を受け持つ教員らが集まるエリアで、数人の先生らが深刻そうに話し合っているのが見えた。
とても無視出来る雰囲気ではなかった。彼らに先に声をかけたのはリンコだった。
「三木村(みきむら)先生、どうかなさいましたか?」
リンコが話しかけたのは、先生方の中で一番年長者で1ー1組担任に三木村陣平(みきむらじんぺい)先生だった。白のシャツとネクタイの上に渋色のベストを着て、顔に多くの皺を刻み込んだ、気難しそうな印象を受ける初老の先生だ。しかし、同僚からの信頼は厚く、一・二年の歴史の他に、一年生の学年主任も担当している。
「オゥ伊庭の嬢ちゃんか。実はな……」
彼女の問いに三木村先生は、後ろに立っている二人の教員を仰ぎ見て、困ったように言い淀んだ。そして、周りに聞こえないようなヒソヒソ声で言った。
「浜本先生と松田先生のクラスの生徒の持ち物が紛失したそうなんです」
「え……!!」
その言葉に、僕は思わず声を出してしまいそうになった。口を抑えて辺りを見回し、顎を引いて謝罪の意を示す。
「私のクラスは、女子生徒が二人……体育終わりで帰ってくると、財布が失くなっていると……」
「ウチのクラスも体育終わりです。スマホが無いとか……」
「スマホ?」
今度はリンコが声を上げた。その声に周りの先生の何人かがチラチラとこっちを見始めた。それに気付いたリンコは、わざとらしくゴホンと咳き込んだ。
「松田先生、どういうことですか? 先日校内一斉持ち物検査をしたばかりじゃないですか?」
「検査が終わったばかりだから、だろうな」
三木村先生は、長年の苦労が入り混じったようなしゃがれ声でそう返した。
「一度済んでしまえば、暫くは検査を行わない。持ってきてもバレない。子供らしい単純な発想だよ」
フン、と鼻を鳴らす三木村先生に、リンコは額を抑えながら、「何てこと……」と呟く。
「あ、あの……実は僕のクラスもでして……」
皆のやり取りに僕が加わると、三木村先生はさらに険しい表情になった。
「何、それは本当か?」
「ハイ……僕のところはノートが二冊とプリントが一枚失くなっただけですけど」
「それは間違いないのね?」
突然、僕達五人の横合いから聞き覚えのある女性の声が掛けられた。僕はギョッとしてその方向を振り向いた。声を掛けてきたのは、ジャージの上から白衣を着た、いかにも養護教諭な長身の女性。僕とリンコの大学の先輩でもあり、先輩教師でもある矢行翔先生だった。
「すみませんね、私耳がいいものでして。それよりも今までの話が本当なら、ちょっとマズいことになりそうですね」
「そうなんですよ。HR中に騒ぎになってて……」
「私のとこもです。これってやっぱり伝えるべきですよね……?」
漆金学園の職員室は、従来のそれよりも解放感がある造りとなっており、机の配置は教室で給食を食べるときに班同士で机を向かいあわせるように並べたものに近い。その、主に一年生を受け持つ教員らが集まるエリアで、数人の先生らが深刻そうに話し合っているのが見えた。
とても無視出来る雰囲気ではなかった。彼らに先に声をかけたのはリンコだった。
「三木村(みきむら)先生、どうかなさいましたか?」
リンコが話しかけたのは、先生方の中で一番年長者で1ー1組担任に三木村陣平(みきむらじんぺい)先生だった。白のシャツとネクタイの上に渋色のベストを着て、顔に多くの皺を刻み込んだ、気難しそうな印象を受ける初老の先生だ。しかし、同僚からの信頼は厚く、一・二年の歴史の他に、一年生の学年主任も担当している。
「オゥ伊庭の嬢ちゃんか。実はな……」
彼女の問いに三木村先生は、後ろに立っている二人の教員を仰ぎ見て、困ったように言い淀んだ。そして、周りに聞こえないようなヒソヒソ声で言った。
「浜本先生と松田先生のクラスの生徒の持ち物が紛失したそうなんです」
「え……!!」
その言葉に、僕は思わず声を出してしまいそうになった。口を抑えて辺りを見回し、顎を引いて謝罪の意を示す。
「私のクラスは、女子生徒が二人……体育終わりで帰ってくると、財布が失くなっていると……」
「ウチのクラスも体育終わりです。スマホが無いとか……」
「スマホ?」
今度はリンコが声を上げた。その声に周りの先生の何人かがチラチラとこっちを見始めた。それに気付いたリンコは、わざとらしくゴホンと咳き込んだ。
「松田先生、どういうことですか? 先日校内一斉持ち物検査をしたばかりじゃないですか?」
「検査が終わったばかりだから、だろうな」
三木村先生は、長年の苦労が入り混じったようなしゃがれ声でそう返した。
「一度済んでしまえば、暫くは検査を行わない。持ってきてもバレない。子供らしい単純な発想だよ」
フン、と鼻を鳴らす三木村先生に、リンコは額を抑えながら、「何てこと……」と呟く。
「あ、あの……実は僕のクラスもでして……」
皆のやり取りに僕が加わると、三木村先生はさらに険しい表情になった。
「何、それは本当か?」
「ハイ……僕のところはノートが二冊とプリントが一枚失くなっただけですけど」
「それは間違いないのね?」
突然、僕達五人の横合いから聞き覚えのある女性の声が掛けられた。僕はギョッとしてその方向を振り向いた。声を掛けてきたのは、ジャージの上から白衣を着た、いかにも養護教諭な長身の女性。僕とリンコの大学の先輩でもあり、先輩教師でもある矢行翔先生だった。
「すみませんね、私耳がいいものでして。それよりも今までの話が本当なら、ちょっとマズいことになりそうですね」