《102》【僕のジョボ女簿日誌】 「第二話 姉弟・接吻(シスター・キス)」(3)ー11 核心
- 2017/07/25
- 00:48
「なるほど、じゃあ来校者と我々不審者の区別はどうやってつけているんですか?」
矢行先生は少し声を低くして詰問するかのように、彼女に問う。
「区別……といいますか、私達はこの学校に配属される前に、教職員の皆様と関係者の方々の名前を全員覚えるように義務付けられているんです」
苦労を思いだすかのように答える名塚さん。
なるほど。さっき僕らが入ってきたとき、矢行先生はすぐに反応したのに、僕には一瞬の間があった。恐らく、初めて話をする教員の名前を記憶から掘り起こしていたのだろう。
「ーーでは、生徒はどうですか?」
矢行先生は、ほんの少し鋭い目付きになって彼女に尋ねた。この獲物を見つけたときのトラのような瞳の彼女を知っている。
彼女が何らかの〝核心〟につくときのモノだ。
「現在この学園には五百人以上の生徒がいます。教員は可能でも、生徒全員の顔と名前を覚えるのはまず不可能ですよね?」
ここで僕は気付いた。彼女がここに何を調べに来たのか。彼女の言っていた、〝あらゆる可能性〟の意味。
「勿論です。ですからーー」
彼女が教えてくれたのは、僕も初めて知る事実だった。
「制服を着てる生徒さんだけは、入れるようにしてるんです」
それを聞いた矢行先生の口元が、ほんの少しほころんだのが見えた。
◆◆
「正門・裏門前には警備員が常に目を光らせているから、気付かれずに侵入するのは難しい。校舎の周りは大人一人分よりチョイ高めの塀で囲まれているし、その上には有刺鉄線も張られている」
校舎に戻る道のり、彼女はつかつかと歩きながら考えを纒めるように喋り続ける。聞いているのは当然僕だけ。
「さらに監視カメラを正門以外にもいくつか設置してあり、日中は常に監視状態にある。近隣の交番とも連携しているから、不審者らしき人がいたらすぐに連絡が来る。つまり、来賓の方以外は校門を通ることも出来ない。だから犯人がいるとしたら内部の人間だと先生方は考えた。でも一つだけ、校内に入ることが出来る方法がある。ーーそれは?」
前を歩く彼女の後を黙って着いていく僕の顔前に、彼女は振り向きビシッと指差してきた。まるで、答えを求めるクイズの出題者のような目で。
僕は少しだけ口籠ったが、頭の中に答えは出ていた。先程の名塚さんの会話の中にあった大きなヒント。それは。
「……制服着てれば誰も怪しまない」
この学園の生徒は一学年およそ百八十人、単純計算でもおよそ五百四十人。意識しなければ、その全員を覚えるのはまず難しい。学園関係者であろうとも。
矢行先生は少し声を低くして詰問するかのように、彼女に問う。
「区別……といいますか、私達はこの学校に配属される前に、教職員の皆様と関係者の方々の名前を全員覚えるように義務付けられているんです」
苦労を思いだすかのように答える名塚さん。
なるほど。さっき僕らが入ってきたとき、矢行先生はすぐに反応したのに、僕には一瞬の間があった。恐らく、初めて話をする教員の名前を記憶から掘り起こしていたのだろう。
「ーーでは、生徒はどうですか?」
矢行先生は、ほんの少し鋭い目付きになって彼女に尋ねた。この獲物を見つけたときのトラのような瞳の彼女を知っている。
彼女が何らかの〝核心〟につくときのモノだ。
「現在この学園には五百人以上の生徒がいます。教員は可能でも、生徒全員の顔と名前を覚えるのはまず不可能ですよね?」
ここで僕は気付いた。彼女がここに何を調べに来たのか。彼女の言っていた、〝あらゆる可能性〟の意味。
「勿論です。ですからーー」
彼女が教えてくれたのは、僕も初めて知る事実だった。
「制服を着てる生徒さんだけは、入れるようにしてるんです」
それを聞いた矢行先生の口元が、ほんの少しほころんだのが見えた。
◆◆
「正門・裏門前には警備員が常に目を光らせているから、気付かれずに侵入するのは難しい。校舎の周りは大人一人分よりチョイ高めの塀で囲まれているし、その上には有刺鉄線も張られている」
校舎に戻る道のり、彼女はつかつかと歩きながら考えを纒めるように喋り続ける。聞いているのは当然僕だけ。
「さらに監視カメラを正門以外にもいくつか設置してあり、日中は常に監視状態にある。近隣の交番とも連携しているから、不審者らしき人がいたらすぐに連絡が来る。つまり、来賓の方以外は校門を通ることも出来ない。だから犯人がいるとしたら内部の人間だと先生方は考えた。でも一つだけ、校内に入ることが出来る方法がある。ーーそれは?」
前を歩く彼女の後を黙って着いていく僕の顔前に、彼女は振り向きビシッと指差してきた。まるで、答えを求めるクイズの出題者のような目で。
僕は少しだけ口籠ったが、頭の中に答えは出ていた。先程の名塚さんの会話の中にあった大きなヒント。それは。
「……制服着てれば誰も怪しまない」
この学園の生徒は一学年およそ百八十人、単純計算でもおよそ五百四十人。意識しなければ、その全員を覚えるのはまず難しい。学園関係者であろうとも。