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短編小説《1》・神様この人でしょうか?(4)

二十人は軽く乗れるであろう広いエレベーターに二人きり。しかも、相手はそれほど親しくはない会社の同僚。当然話が繋がることもなく、寂しい沈黙が二人を包んでいる。
インターホンは相変わらず無反応。外にいる人間は本当に自分達に気付いているのか。本当にここから出られるのか不安になってきた。……いや、不安要素はもう一つある。

「暑くなってきましたね、マフラー預かりましょうか?」

真紀は言われて初めて気付いた。額と首筋にかなりの汗がつたっていることに。密閉された空間は当然温度と湿度が上がる。上昇する体温から生まれる汗と思い、中田は声をかけたのだ。
しかし、真紀本人は気付いていた。これは、〝もう余裕がない〟という身体からの警告だということに。

(コイツのせいだ……)

真紀はこの極限の状況を全て中田のせいにした。
あの後、何枚かの下着でモデル写真のようなポーズをとり続けたが中田は揺らぐことはなかった。淡々と「どう?」に対するアドバイスが返ってきただけだった。
この結果に気落ちすると共に、真紀はようやく冷静な判断をとれるようになってきた。
どうして、こんなヤツに私は意地になっているのか。
真紀は黙々と元の下着に着替え、乱雑に試着室を出た。そして一枚の下着を中田に渡して、「アンタが払って!奢りよ!」と命令した。中田はためらうことなく、レジへと持っていった。そこそこ値が張るものだが、真紀に罪悪感はなかった。一日付きあって〝あげた〟ことへのお礼と考えたのだ。
そのとき、丁度近くのエレベーターが着くのが見え、真紀は一人で飛び乗った。彼はギリギリで間に合った。その下降中にエレベーターが止まるのも知らずに。

(ヤバい……これマジでヤバいヤツかも……)

真紀が尿意を覚えたのは、備品売り場でのこと。でもそのときはまだ、ちょっと行きたいかな、くらいの感じだった。その後誘惑作戦にことごとく失敗し、苛立ちを覚えてしまい頭からそのことが消えていたのだ。エレベーターに乗ってリラックスしたとき、先程よりも膀胱への蓄積量が増えていたことに気付き、降りたらトイレに駆け込もうと思った矢先のことだった。

(嘘……このままじゃアタシ……イ、嫌よ!! よりにもよってこんなヤツの前で!!)

真紀はチラと中田の方を見た。階数ボタンの前に立ったまま、その位置からずっと動かない。おそらく、いつ非常電話が来たとしても直ぐに応対出来るように準備しているのだろう。だが、真紀のことを気遣ってかチラチラと視線を動かしていた。悪いときに、こんなときに目が合った。

「大丈夫ですか? 先程よりも顔色が悪くなっていますよ?」

真紀のことを本当に心配しているのか、今までよりも声のトーンがうわずっていた。しかし、今はその優しさすらも恨めしい。

「うるさいわね!! 何でもないわよ!!何よ、さっきから大丈夫、大丈夫って!? それしかないワケ……ーーあ……ウゥ……ウ……アァ」

思わず大声を出してしまった真紀は、勢いそのままに立ち上がってしまったのだ。それが崩壊への第一歩となることも気付かずに。

ジュ……ジュ……ジワワワァ……!!

当事者にしか分からない音と感触。僅かではあるが真紀の下着が生暖かくなった。

(嘘……ちょっと出ちゃった。チビっちゃった……)

力んだ弾みで、真紀の尿道から二、三滴零れ落ちた。気付いたときには、既に両手でオシッコの出口をスカート越しにギュっと押さえていた。
何とか決壊は免れたものの、目の前にいる中田には真紀の置かれた状況を気付かれてしまった。

「ひょっとして……お手洗いですか?」

言い逃れは出来なかった。真紀は顔がカーッと熱くなると同時に、目元に涙を浮かべた。
大丈夫ですかと近付く中田に、真紀はキッとした表情を向け両手で防ごうとした。

「く、来るなぁ!寄るなぁ! 触るなぁ! 近付くなあぁぁぁぁ!!!!っああ……だ、駄目ぇ! アッ……アアアア〜!!!!」

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プロフィール

Author:屈辱の湖
周りと違う僕はおかしいのだろうか。
こんな性癖誰にも理解されないのではないか。
どうやって新しいオカズを手に入れればいいのか。
分からぬまま悶々と欲望を募らせていましたがーーとうとう見つけました。僕のたぎる思いを満たすことが出来るのは、

〝少女のおもらし〟だと。

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