《22》【僕のジョボ女簿日誌】 「第一話 学園(エデン)は檻の中」 (5)―1 健全
- 2017/03/01
- 23:27
「あ……」
大きな貯水タンクの裏手は畳二畳程の空間があり、そこで二人の男女が抱き合いながら口付けを交わしていた。
桃瀬が先に僕に気付き、驚いた顔で上山と距離を取った。彼は僕に気付かれても平然としていた。
「これはこれは、築月先生。確か彼女……桃瀬の担任でしたよね? すいません、彼女とお付き合いさせて頂いている2組の上山です」
彼は僕に、恭しい顔付きでお辞儀をしてみせた。桃瀬は顔を真っ赤にして俯いている。
「あぁ、すいません。何か成り行きでこうなっちゃって。でも、今どきの高校生ならキスくらい当然ですよ。それに僕らは〝健全な〟お付き合いをしているつもりですから、この先はまだお預けしてますよ。……先生なら分かってくれますよね? まだ、お若いみたいですし」
上山はぐいと距離を詰めて、饒舌にまくし立ててきた。こういうタイプは苦手だ。おそらく彼は、僕が〝委員会のメンバーでありながら、校内で淫らな行為をする生徒らを注意しにきた〟とでも思っているのだろう。
僕は生徒の色恋沙汰には干渉しない。彼らだってもう十分大人だ。やって良いことと悪いことの分別はつくだろうから、彼らの自主性を尊重したい。それで後戻りが出来なくなったとしても、それは彼らの責任だろう。
……こんなこと、伊庭先生の前では言えないな。
「それじゃあ、僕はここで。またね、モモちゃん」
彼は桃瀬を抱くように身を寄せると、僕に見せ付けるように彼女のおでこにキスをした。
「あ……」
今度は耳まで真っ赤にした桃瀬は、恥ずかしそうに僕から目を逸らした。
そう、あの日みたいに。
上山は僕の横を通り、屋上を去っていった。
「…………」
「…………」
残された二人を重苦しい空気が包んだ。
本当なら上山に感謝の意を伝えたかっただけなのに、まさか彼女と残されることになるとはな。伊庭先生から出来るだけ彼女と関わらないように言われている、ここは僕の方から立ち去るべきか。
「幻滅しちゃいましたよね……」
先に口を開いたのは、桃瀬だった。
「風紀を取り締まるべきはずの、委員会である私が学校で……こんなイケないことして。ガッカリしちゃいましたよね」
桃瀬は明るい声を上げたつもりだが、僕は胸の内にチクリと痛みを感じた。
「そんなことないです。僕はただ……」
「分かってます。でも……今、私に優しくしてくれるのは、上山君だけなんです……」
桃瀬はシワのよった制服の上から、腕組みのように自分自身を抱きしめる。
「あの日……私がオシッコに失敗しちゃって以来、クラスの皆とは距離が出来て……今まで通り接してくれる娘達も目の奥が笑ってないように見えて、廊下に出ればすれ違う皆が私を冷たい目で見てくるような気がして……。勿論皆が皆、そうじゃないって分かってるんですよ? でも……身体が震えて……止まらなくて……どうしようもないんです……」
大きな貯水タンクの裏手は畳二畳程の空間があり、そこで二人の男女が抱き合いながら口付けを交わしていた。
桃瀬が先に僕に気付き、驚いた顔で上山と距離を取った。彼は僕に気付かれても平然としていた。
「これはこれは、築月先生。確か彼女……桃瀬の担任でしたよね? すいません、彼女とお付き合いさせて頂いている2組の上山です」
彼は僕に、恭しい顔付きでお辞儀をしてみせた。桃瀬は顔を真っ赤にして俯いている。
「あぁ、すいません。何か成り行きでこうなっちゃって。でも、今どきの高校生ならキスくらい当然ですよ。それに僕らは〝健全な〟お付き合いをしているつもりですから、この先はまだお預けしてますよ。……先生なら分かってくれますよね? まだ、お若いみたいですし」
上山はぐいと距離を詰めて、饒舌にまくし立ててきた。こういうタイプは苦手だ。おそらく彼は、僕が〝委員会のメンバーでありながら、校内で淫らな行為をする生徒らを注意しにきた〟とでも思っているのだろう。
僕は生徒の色恋沙汰には干渉しない。彼らだってもう十分大人だ。やって良いことと悪いことの分別はつくだろうから、彼らの自主性を尊重したい。それで後戻りが出来なくなったとしても、それは彼らの責任だろう。
……こんなこと、伊庭先生の前では言えないな。
「それじゃあ、僕はここで。またね、モモちゃん」
彼は桃瀬を抱くように身を寄せると、僕に見せ付けるように彼女のおでこにキスをした。
「あ……」
今度は耳まで真っ赤にした桃瀬は、恥ずかしそうに僕から目を逸らした。
そう、あの日みたいに。
上山は僕の横を通り、屋上を去っていった。
「…………」
「…………」
残された二人を重苦しい空気が包んだ。
本当なら上山に感謝の意を伝えたかっただけなのに、まさか彼女と残されることになるとはな。伊庭先生から出来るだけ彼女と関わらないように言われている、ここは僕の方から立ち去るべきか。
「幻滅しちゃいましたよね……」
先に口を開いたのは、桃瀬だった。
「風紀を取り締まるべきはずの、委員会である私が学校で……こんなイケないことして。ガッカリしちゃいましたよね」
桃瀬は明るい声を上げたつもりだが、僕は胸の内にチクリと痛みを感じた。
「そんなことないです。僕はただ……」
「分かってます。でも……今、私に優しくしてくれるのは、上山君だけなんです……」
桃瀬はシワのよった制服の上から、腕組みのように自分自身を抱きしめる。
「あの日……私がオシッコに失敗しちゃって以来、クラスの皆とは距離が出来て……今まで通り接してくれる娘達も目の奥が笑ってないように見えて、廊下に出ればすれ違う皆が私を冷たい目で見てくるような気がして……。勿論皆が皆、そうじゃないって分かってるんですよ? でも……身体が震えて……止まらなくて……どうしようもないんです……」