《25》【僕のジョボ女簿日誌】 「第一話 学園(エデン)は檻の中」 (5)―4 漆金
- 2017/03/04
- 11:23
僕が教師を勤める漆金(うるしがね)学園高校は、地域でも有名な進学校であり勉学への力の入れ具合は県内有数である。
その証拠に、一年次のクラス分けは入試の成績順、それから学期毎に行われるテストによっては入れ替えもありうるという、まさに実力第一主義なのだ。その成果もあってか、毎年多くの学生を有名大学に排出しており、遠くから通っている生徒も少なくはない。
そのためか、上の方々は巷の悪評や噂にピリピリしている。問題等起こそう生徒がいるなら、すぐにでも大学させられる可能性が高い。
そんな伝統校で今一番話題となっていたのが、桃瀬のおもらし事件だった。
そう、〝だった〟のだ。
◆◆
爽やかな朝の光の下で、爽やかではない表情を浮かべながらすれ違う生徒達と挨拶を交わす。
(結局、いい案が浮かばなかったなぁ……)
鬱々真っ盛りの原因は、鬼の風紀教師である伊庭倫寧先生に昨日の一件を話さなくちゃいけないからだ。恐らく桃瀬の言葉ぶりから察するに、彼女はまだ桃瀬の心を掴みきれていない。いや、それどころか桃瀬は、彼女の行動に迷惑しているかの口振りだった。
そのまま伝えたら、確実に僕に飛び火が来る。
『桃瀬さんとは私が話すと言ったハズです! どうしてあなたにそんなこと言うんですか? どうしてそういう流れになったのですか? 大体どうして屋上にいるなんて分かったんですか? え、上山くんと? 何で彼と――はぁ!? 交際!? ふ、不潔ですッ!! 非常識ですッ!!』
……どう言っても、悲惨な結末しか見えてない。頑張り屋なのは分かるけど、もっと柔軟な発想を持ってほしい。そうすれば、矢行先生みたいに女子生徒からの人気も上がると思うんだが。
「築月先生!!」
険のある声が校門前に鳴り響く。聞き覚えのあるその声に、僕は思わずビシッと背筋を伸ばしてしまう。
顔を上げると、校内から走ってきたのだろう息も絶え絶えな伊庭先生の姿があった。
「……伊庭先生、どうされました?」
彼女はいつも通りメガネをくいと直すと、僕に尋常ではない気配をはらみながら視線を向けた。
……ま、まさか昨日のことが耳に入ったのか? いや、そんなハズは。だって誰にも言ってないから。じゃあ何で。
「急いで教室へ来て下さい! 大変なんです!」
この慌て方は尋常じゃない。余程のことがあったのかと僕は聞き返そうとしたが、それよりも先に彼女は駆け出していた。話しているヒマはないということか。
僕は彼女の必死な背中を追った。
◆◆
前述した通り、我が校は一年次に成績順にクラス分けされるのだが、全部で六クラスあり上位者が約三十人単位で1ー1、1ー2と決まっていく。その結果、今密かに〝学園ヒエラルキー〟が存在しているらしい。一組から三組までが上位クラス、それ以下の三クラスが下位クラスと銘打たれ、生徒間での差別問題が起きているとか、何とか。
学園の名誉を守りたい校長と教頭からは、職員室の朝礼で、『くれぐれも問題は起こさないように! 生徒を見張っているように!』と何度も何度も何度も、耳にタコが起きるくらい聞かされた。
そのため厄介事は起こしたくなかったが、この様子は只事じゃないと思った。
その証拠に、一年次のクラス分けは入試の成績順、それから学期毎に行われるテストによっては入れ替えもありうるという、まさに実力第一主義なのだ。その成果もあってか、毎年多くの学生を有名大学に排出しており、遠くから通っている生徒も少なくはない。
そのためか、上の方々は巷の悪評や噂にピリピリしている。問題等起こそう生徒がいるなら、すぐにでも大学させられる可能性が高い。
そんな伝統校で今一番話題となっていたのが、桃瀬のおもらし事件だった。
そう、〝だった〟のだ。
◆◆
爽やかな朝の光の下で、爽やかではない表情を浮かべながらすれ違う生徒達と挨拶を交わす。
(結局、いい案が浮かばなかったなぁ……)
鬱々真っ盛りの原因は、鬼の風紀教師である伊庭倫寧先生に昨日の一件を話さなくちゃいけないからだ。恐らく桃瀬の言葉ぶりから察するに、彼女はまだ桃瀬の心を掴みきれていない。いや、それどころか桃瀬は、彼女の行動に迷惑しているかの口振りだった。
そのまま伝えたら、確実に僕に飛び火が来る。
『桃瀬さんとは私が話すと言ったハズです! どうしてあなたにそんなこと言うんですか? どうしてそういう流れになったのですか? 大体どうして屋上にいるなんて分かったんですか? え、上山くんと? 何で彼と――はぁ!? 交際!? ふ、不潔ですッ!! 非常識ですッ!!』
……どう言っても、悲惨な結末しか見えてない。頑張り屋なのは分かるけど、もっと柔軟な発想を持ってほしい。そうすれば、矢行先生みたいに女子生徒からの人気も上がると思うんだが。
「築月先生!!」
険のある声が校門前に鳴り響く。聞き覚えのあるその声に、僕は思わずビシッと背筋を伸ばしてしまう。
顔を上げると、校内から走ってきたのだろう息も絶え絶えな伊庭先生の姿があった。
「……伊庭先生、どうされました?」
彼女はいつも通りメガネをくいと直すと、僕に尋常ではない気配をはらみながら視線を向けた。
……ま、まさか昨日のことが耳に入ったのか? いや、そんなハズは。だって誰にも言ってないから。じゃあ何で。
「急いで教室へ来て下さい! 大変なんです!」
この慌て方は尋常じゃない。余程のことがあったのかと僕は聞き返そうとしたが、それよりも先に彼女は駆け出していた。話しているヒマはないということか。
僕は彼女の必死な背中を追った。
◆◆
前述した通り、我が校は一年次に成績順にクラス分けされるのだが、全部で六クラスあり上位者が約三十人単位で1ー1、1ー2と決まっていく。その結果、今密かに〝学園ヒエラルキー〟が存在しているらしい。一組から三組までが上位クラス、それ以下の三クラスが下位クラスと銘打たれ、生徒間での差別問題が起きているとか、何とか。
学園の名誉を守りたい校長と教頭からは、職員室の朝礼で、『くれぐれも問題は起こさないように! 生徒を見張っているように!』と何度も何度も何度も、耳にタコが起きるくらい聞かされた。
そのため厄介事は起こしたくなかったが、この様子は只事じゃないと思った。