《33》【僕のジョボ女簿日誌】 「第一話 学園(エデン)は檻の中」 (6)ー6 利尿
- 2017/03/25
- 00:06
間違いなかった。1ー2組の委員長件生徒会執行部会長の役職も務める学園きっての秀才、そして桃瀬の恋人でもあるはずの彼が、どうしてこんなところに。
いやそもそも、どうして彼らと一緒にいるのか。
「上山くぅ〜ん、こんなとこにいていいのか? 〝大切な〟生徒会会議なんじゃなかったの?」
「大丈夫だよ。今日は決算報告だけだから、僕一人いなくても何とかなるよ。たまには羽を伸ばさないとね」
「ヒュー、エリートさんは言うことは違うねぇ」
「そんな君が俺らなんかといていいのかよ〜?」
「僕は僕だよ。周りが勝手に理想の生徒像を作り上げて、僕にそれを押し付けてるだけ。正直ダルいんだよね。演じるっていうのも」
彼は屋上のときと同じように、饒舌な口調で不良達に説明し始めた。ここに通い慣れているといった感じで。
なるほど。生徒会というプレッシャー、いやこの場合は重荷からくるストレスか。それをこういう形で発散していたのか。
教師として彼の振る舞いは咎めるべきなのかもしれないが、どうもそういう気になれなかった。この世に完璧な人間なんていない。むしろ彼は完璧を演じ、それで賛辞を得ている。そんな彼にも息抜きの時間があってもいいはず。ここで問い詰める気はない。しかし、その行為自体は決して褒められるものではない。今度個人的にでも注意してやるーー。
「あ、そういや愛しの彼女のところに行かなくてもいいのかよ?」
「あぁ、大丈夫っしょ。彼女僕のこと信じ切ってるし。何つーか、そろそろ飽きてきたんだよね〜」
ーーえ。
「今までたくさんの女と付き合ってきたけど、どいつもちょっと甘い言葉を囁くだけで、すぐにコロッと落ちちまうからな。でもアイツだけだよ、ず〜っと拒否し続けてきたのは。俺もプライドってのがあるから、徹底的にアタックしてやったよ。それでもあの女、振り向いてくれなかったからな〜」
ーーアイツ、今。
「それを成功に導いたのが、俺のおかげだな!」
不良の一人、金髪の生徒が声を張り上げ手を挙げた。
「シッ! デカイ声出すな! 誰かに聞こえたらどうすんだ!」
「大丈夫だって! こんな時間にこんなところに誰も来ねえよ!」
「あぁ。でも、アンタのおかげじゃない、アンタの兄貴が優秀な医者だったおかげだ」
「何言ってんだ! 大変だったんだぜ! 兄貴の部屋から〝利尿剤〟をくすねるのって!」
ーー何て、言った。
トクン。心臓が警鐘を鳴らすかのように激しく鳴る。冷たい汗が背筋を伝う。何だ。何だこの嫌な予感は。
「アンタが〝彼女に恥をかかせたい〟っていうから! 俺もこの前のテストのヤマを教えてくれなければ、絶対にやらなかったぜ!」
「お前は人を使うのが上手いな。結局、欲しいものを全て手に入れたのはお前だ」
「僕も半信半疑だったよ。まさかこんなに上手くいくとはね。彼女には悪いと思ったけど……まぁ、人の噂も七十五日っていうし、時間が解決してくれるでしょ」
ーーまさか。
ーーまさか、まさか、まさか、まさか。
そんなまさか。信じたくない。
彼のためではない、彼女のために。
ーーアイツが仕組んだのか? そんな、そんなばかな。
「しっかし意外と大変なんだな。誰にも気付かれずに彼女の紅茶だけに薬を混ぜるのって」
ーー彼女を自分の恋人にしたいっていう、そんな身勝手な理由で?
「ーーーーーー!!!!」
僕の後ろで、小さな悲鳴があった。不良達と上山がちょっと驚いた顔でこっちを見た。僕も後ろを振り向いた。
ーー彼女は信じられない、といった声で言った。
「ーー上山君……」
僕も信じられなかった。
どうして桃瀬さんがここにいるのかを。
彼女は僕に背を向けると、僕の制止も聞かず走っていってしまった。僕も彼女の後を追う。
果たして、不良(&上山)の皆に彼女の姿は見えていたのだろうか。
いやそもそも、どうして彼らと一緒にいるのか。
「上山くぅ〜ん、こんなとこにいていいのか? 〝大切な〟生徒会会議なんじゃなかったの?」
「大丈夫だよ。今日は決算報告だけだから、僕一人いなくても何とかなるよ。たまには羽を伸ばさないとね」
「ヒュー、エリートさんは言うことは違うねぇ」
「そんな君が俺らなんかといていいのかよ〜?」
「僕は僕だよ。周りが勝手に理想の生徒像を作り上げて、僕にそれを押し付けてるだけ。正直ダルいんだよね。演じるっていうのも」
彼は屋上のときと同じように、饒舌な口調で不良達に説明し始めた。ここに通い慣れているといった感じで。
なるほど。生徒会というプレッシャー、いやこの場合は重荷からくるストレスか。それをこういう形で発散していたのか。
教師として彼の振る舞いは咎めるべきなのかもしれないが、どうもそういう気になれなかった。この世に完璧な人間なんていない。むしろ彼は完璧を演じ、それで賛辞を得ている。そんな彼にも息抜きの時間があってもいいはず。ここで問い詰める気はない。しかし、その行為自体は決して褒められるものではない。今度個人的にでも注意してやるーー。
「あ、そういや愛しの彼女のところに行かなくてもいいのかよ?」
「あぁ、大丈夫っしょ。彼女僕のこと信じ切ってるし。何つーか、そろそろ飽きてきたんだよね〜」
ーーえ。
「今までたくさんの女と付き合ってきたけど、どいつもちょっと甘い言葉を囁くだけで、すぐにコロッと落ちちまうからな。でもアイツだけだよ、ず〜っと拒否し続けてきたのは。俺もプライドってのがあるから、徹底的にアタックしてやったよ。それでもあの女、振り向いてくれなかったからな〜」
ーーアイツ、今。
「それを成功に導いたのが、俺のおかげだな!」
不良の一人、金髪の生徒が声を張り上げ手を挙げた。
「シッ! デカイ声出すな! 誰かに聞こえたらどうすんだ!」
「大丈夫だって! こんな時間にこんなところに誰も来ねえよ!」
「あぁ。でも、アンタのおかげじゃない、アンタの兄貴が優秀な医者だったおかげだ」
「何言ってんだ! 大変だったんだぜ! 兄貴の部屋から〝利尿剤〟をくすねるのって!」
ーー何て、言った。
トクン。心臓が警鐘を鳴らすかのように激しく鳴る。冷たい汗が背筋を伝う。何だ。何だこの嫌な予感は。
「アンタが〝彼女に恥をかかせたい〟っていうから! 俺もこの前のテストのヤマを教えてくれなければ、絶対にやらなかったぜ!」
「お前は人を使うのが上手いな。結局、欲しいものを全て手に入れたのはお前だ」
「僕も半信半疑だったよ。まさかこんなに上手くいくとはね。彼女には悪いと思ったけど……まぁ、人の噂も七十五日っていうし、時間が解決してくれるでしょ」
ーーまさか。
ーーまさか、まさか、まさか、まさか。
そんなまさか。信じたくない。
彼のためではない、彼女のために。
ーーアイツが仕組んだのか? そんな、そんなばかな。
「しっかし意外と大変なんだな。誰にも気付かれずに彼女の紅茶だけに薬を混ぜるのって」
ーー彼女を自分の恋人にしたいっていう、そんな身勝手な理由で?
「ーーーーーー!!!!」
僕の後ろで、小さな悲鳴があった。不良達と上山がちょっと驚いた顔でこっちを見た。僕も後ろを振り向いた。
ーー彼女は信じられない、といった声で言った。
「ーー上山君……」
僕も信じられなかった。
どうして桃瀬さんがここにいるのかを。
彼女は僕に背を向けると、僕の制止も聞かず走っていってしまった。僕も彼女の後を追う。
果たして、不良(&上山)の皆に彼女の姿は見えていたのだろうか。