《34》【僕のジョボ女簿日誌】 「第一話 学園(エデン)は檻の中」 (7)ー1 貯水
- 2017/03/26
- 03:17
放課後の学校の中を、僕は桃瀬さんの姿を探して回った。今の彼女が行きそうな場所は限られている。だから、彼女が屋上の貯水タンクの前で体育座りをしていても驚かなかった。
「桃瀬さん……」
僕は荒ぐ息を整えると、彼女の横に腰を下ろした。彼女は顔を伏せ、僕と目を合わせようとしない。
何を話していいか分からない。彼女自身も放っておいてほしいのかもしれない。しかし、ここを動くことは出来なかった。
そのとき。
ーーショワショワショワ〜……
僕の耳に水音が聞こえた。川のせせらぎのような生々しい水音には聞き覚えがあった。そう、それは全ての一件の始まりのあの日ーーって。
「……桃瀬さんッ!?」
水音の発生源は彼女のお尻だった。
ぴったりと閉じられていた両膝がゆっくりと開かれると共に、彼女のスカートのお尻部分は色濃く濡れ、さらにみるみる広がっていく。さらに、吸収しきれなかったそれは屋上タイルの床に流れ、一方は脇の排水口へと吸い込まれ、また一方は足下へと広がっていった。
湯気が立つような出たての彼女のオシッコが発する、すえたアンモニアの匂いが鼻腔をつく。
「桃瀬さん、どうして……」
彼女はプルプルと小さく肩を揺らす。どうやら、出し切ってしまったようだ。
校庭で熱心に部活に勤しむ運動部の掛け声が遠くに感じる。まるで、この世界から僕らだけ隔離されていくようだ。
また、彼女の失敗を見てしまった。しかし、あのときはおもらし後の姿だったが、今回はその途中から。彼女のオシッコが出始めてしまった辺りから、出し終わるまで全てをまじまじと見てしまった。
それなのに、思ったよりも落ち着いている自分に驚く。ーーやはり、〝慣れているから〟なのだろうか。
「……もう……どうでもいいんです」
ゆっくりと顔を半分だけ上げた彼女は、涙を滲ませた瞳もまた半開きにして僕の顔を見た。赤面していることは分かるが、まるで表情を抜きとられたかのように目に生気が灯っていなかった。
「放っておいて下さい、私なんて……このまま……オシッコにまみれて死んじゃえばいいんです……」
彼女の身体を震わせながら、再び顔を伏せてしまった。まるで、この世の全てのものを拒絶するかのように。
胸が張り裂けそうなくらい痛む。教室で大泣きしていたときとは、比べものにならないくらいの痛みだ。
この年で二回もおもらしをしてしまったのだ。同級生の前ではないとはいえ、異性であるしかも担任の僕に見られてしまった。恥ずかしさは相当なはず。
僕は――彼女のために何が出来る?
――僕は。
――僕は。
――僕は。
「桃瀬、僕の顔を見るんだ」
僕は、小刻みに揺れる彼女の肩に手を乗せた。流れるオシッコがピチョンと上履きに付いたが、そんなの気にしなかった。
しばらくして顔を上げた彼女の潤んだ瞳と、じっと見つめ合う。
「死ぬなんてこと嘘でも言うんじゃない。死んでいい人間なんてこの世に一人もいないんだ。お父さんとお母さんだって悲しむ。田代さんだって……それに、僕もだって」
誰かがいなくなれば、誰かが悲しむ。そんな当たり前のことなのに、どうして今の子供達は〝死ぬ〟なんて言葉を簡単に口をするのか。それが、どんなに辛く悲しいことか分かっているのか。
彼女の苦しみは分かる。かといって、それを口に出していい理由にはならない。
「桃瀬さん……」
僕は荒ぐ息を整えると、彼女の横に腰を下ろした。彼女は顔を伏せ、僕と目を合わせようとしない。
何を話していいか分からない。彼女自身も放っておいてほしいのかもしれない。しかし、ここを動くことは出来なかった。
そのとき。
ーーショワショワショワ〜……
僕の耳に水音が聞こえた。川のせせらぎのような生々しい水音には聞き覚えがあった。そう、それは全ての一件の始まりのあの日ーーって。
「……桃瀬さんッ!?」
水音の発生源は彼女のお尻だった。
ぴったりと閉じられていた両膝がゆっくりと開かれると共に、彼女のスカートのお尻部分は色濃く濡れ、さらにみるみる広がっていく。さらに、吸収しきれなかったそれは屋上タイルの床に流れ、一方は脇の排水口へと吸い込まれ、また一方は足下へと広がっていった。
湯気が立つような出たての彼女のオシッコが発する、すえたアンモニアの匂いが鼻腔をつく。
「桃瀬さん、どうして……」
彼女はプルプルと小さく肩を揺らす。どうやら、出し切ってしまったようだ。
校庭で熱心に部活に勤しむ運動部の掛け声が遠くに感じる。まるで、この世界から僕らだけ隔離されていくようだ。
また、彼女の失敗を見てしまった。しかし、あのときはおもらし後の姿だったが、今回はその途中から。彼女のオシッコが出始めてしまった辺りから、出し終わるまで全てをまじまじと見てしまった。
それなのに、思ったよりも落ち着いている自分に驚く。ーーやはり、〝慣れているから〟なのだろうか。
「……もう……どうでもいいんです」
ゆっくりと顔を半分だけ上げた彼女は、涙を滲ませた瞳もまた半開きにして僕の顔を見た。赤面していることは分かるが、まるで表情を抜きとられたかのように目に生気が灯っていなかった。
「放っておいて下さい、私なんて……このまま……オシッコにまみれて死んじゃえばいいんです……」
彼女の身体を震わせながら、再び顔を伏せてしまった。まるで、この世の全てのものを拒絶するかのように。
胸が張り裂けそうなくらい痛む。教室で大泣きしていたときとは、比べものにならないくらいの痛みだ。
この年で二回もおもらしをしてしまったのだ。同級生の前ではないとはいえ、異性であるしかも担任の僕に見られてしまった。恥ずかしさは相当なはず。
僕は――彼女のために何が出来る?
――僕は。
――僕は。
――僕は。
「桃瀬、僕の顔を見るんだ」
僕は、小刻みに揺れる彼女の肩に手を乗せた。流れるオシッコがピチョンと上履きに付いたが、そんなの気にしなかった。
しばらくして顔を上げた彼女の潤んだ瞳と、じっと見つめ合う。
「死ぬなんてこと嘘でも言うんじゃない。死んでいい人間なんてこの世に一人もいないんだ。お父さんとお母さんだって悲しむ。田代さんだって……それに、僕もだって」
誰かがいなくなれば、誰かが悲しむ。そんな当たり前のことなのに、どうして今の子供達は〝死ぬ〟なんて言葉を簡単に口をするのか。それが、どんなに辛く悲しいことか分かっているのか。
彼女の苦しみは分かる。かといって、それを口に出していい理由にはならない。