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《54》【僕のジョボ女簿日誌】 「第一話 学園(エデン)は檻の中」(10)ー2 壁際

絞り出すような、考えた末の言葉のようなトーンの声音で彼女は言った。

「私は大丈夫だから。もし、私のせいで太郎が本当にやりたいことが出来ないのなら、私は気にしなくていいから。私は大丈夫よ、何があっても。だから……」

「シミ姉」

僕はつとめて平静を装いながら、彼女に顔を向けた。

「何言ってるの? 僕は平気だよ。それより、今日は昨日みたいに遅くならないから。あ、そうそう」

再び出て行こうとしたところで、僕は思い出したかのように、再度シミ姉の顔を見つめる。そして、少し意地悪な口調で言った。

「ちゃんと小まめにトイレに行っておかなきゃダメだよ」

シミ姉はマグマのように顔を真っ赤に染める。下手に声を上げられる前に、僕はドアを閉めて出て行った。

◆◆

『……先程の教頭先生のお話にもありましたが、節度のある高校生活を心掛けて……』

巨大なステージの中央に置かれた演台の上に置かれたスタンドマイクを通して、校長先生が話をしている。「校長先生の話は長い」という定番ネタがあるようだが、我が高校はレアケースで木舟校長先生の話は三分もない。何故なら、その前の岡教頭の話が、平均十分以上もあるからだ。これもまたレアケースか。本日も例に漏れず、昨日の写真を話題に延々と演説をした。耳の早い生徒達にその噂は全て広まっていたが、やはり公式な発表は見ていない生徒達に若干の動揺を生んでいる(僕の名前は出さず、「教員と生徒がいかがわしい行為に及んでいる」という説明だった)。
これなら校長の話はいらないのではと思ってしまうが、やはりそこは形式を重んじる伝統校、キュッとまとめてまとめて三分程に短くさせられた校長の横顔は、物寂しを感じさせた。
自分が今いるのは、舞台の右側(上手側と呼ばれる)の舞台袖。整列した生徒達の死角となり見えない位置に待機していた。この後の出番のために。
つい先程までここには校長と教頭もいたが、自分の演説が終わると、舞台の隅に設置された小階段を使ってフローリングの床へと降り、他の先生方と同じく壁際に移動することとなっている。
つい先程までここには校長と教頭もいたが、自分の演説が終わると、舞台の隅に設置された小階段を使ってフローリングの床へと降り、他の先生方と同じく壁際に移動することとなっている。
薄暗い袖で一人ぼっち。それがこんなにも心細いなんて。
そういえば最近の僕は、近くに誰かいるという状況に慣れていたのかもしれない。溜息をつけば頼れる先輩に背中を押され、顔を上げれば真面目な同期に注意され、また下を向けば元気を有り余らせた生徒らに容姿をイジられる。
本来の僕は一人ぼっちだった。だからこんな状況、慣れっこのはずだったのに。

『……以上で、私の話は終わります。え〜、本日は現在PTAの会長を務めておられます、関町様が来賓としてお招きしております。それでですね、教員の皆様を代表して、我が校に赴任して二年を迎えました築月先生にお話を頂こうと思います』

話を終えると彼は生徒に一礼をし、舞台袖近くの小階段へと向かう。そのとき、ほんの一瞬目が合う。その日は〝すまないが、頼む〟と言っているように思えた。僕の思い過ごしかもしれないが、僕はアイコンタクトで〝大丈夫です〟と返した(伝わったかどうかは分からないが)。

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プロフィール

Author:屈辱の湖
周りと違う僕はおかしいのだろうか。
こんな性癖誰にも理解されないのではないか。
どうやって新しいオカズを手に入れればいいのか。
分からぬまま悶々と欲望を募らせていましたがーーとうとう見つけました。僕のたぎる思いを満たすことが出来るのは、

〝少女のおもらし〟だと。

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