《58》【僕のジョボ女簿日誌】 「第一話 学園(エデン)は檻の中」(10)ー6 三回
- 2017/05/03
- 00:24
僕は、彼女を気遣うように正直に答えたつもりだったが、彼女はより赤面してしまったような気がする。
だが、それは本心だった。一般的に人の排泄物は汚いものとされているはず。しかし、自然と彼女のそれはそんな風に感じなかった。だからさっきも、彼女の湖に足を踏み入れたときも何の迷いもなかった。
「築月先生……!」
そんな中、ようやく群衆の中から一人の男性が飛び出した。青ざめた表情の校長先生だった。
意外だな、どうせ教頭先生が怒鳴りながら生徒を跳ね除けて向かってくるのかと思いきや。その理由はすぐ分かった。遠くの方で来賓の方々に必死に頭を下げ、何かを説明している彼女が見えた。想定外の事態に彼女もパニックになっているようだった。
「校長先生、僕のクラスの生徒が体調が優れないようなので、彼女を保健室に連れて行きます」
好都合だった。こう言っては何だが、今なら「うるさい」人はいない。時既に遅し、かもしれないが今なら桃瀬さんを助け出すことが出来る。
「分かった……よろしく頼むよ」
校長が首を縦に振ると、僕もまたそれに答え、渡り廊下へと歩き始めた。
生徒の輪はモーゼのごとく自然に割れていく。僕は躊躇なく歩いていたが、一人の生徒と目が合った。相手の男子生徒は、見なかったフリをするように視線を下に落としたが、僕は立ち止まり一言呟いた。自分の声とは思えない重苦しい、地獄からの使いの如き声だった。
「どうして近づこうともしない……上山。お前はこの娘の彼女じゃなかったのか? それとも……〝薬〟のことをバラされたくないのか?」
僕のその一言で、沢山の視線が上山へと集まった。初めて僕と顔を合わせたときと、同じ人間とは思えないくらい緊張し強張った表情をした上山は、僕の言葉を聞いた瞬間、かすれ声で「あ」と漏らした後、ヘナヘナとその場にへたり込んだ。
◆◆
秋とは思えない爽やかな陽の光が差し込む、人気のない廊下。気付けば時刻は九時半前。僕は歩くペースを早くした。後少しで一時間目が始まってしまう時間だ、もしかしたら生徒か帰ってくる可能性もある。
「ゴメンなさい、築月先生……また……しちゃって……」
頬を真っ赤に腫らした彼女は、僕の胸の中で恥ずかしそうにはにかんだ。彼女のオシッコの匂いが辺りを漂い始めたが、やはり嫌な気はしない。
「もう、先生の前で三回もお漏らししちゃいましたね……エヘヘ……」
彼女は自分の脚に付いたオシッコの跡を見つめながら、自嘲気味に笑う。
「で、でも……大丈夫ですから、先生。私……ちゃんと明日も学校来ますから。もう……お漏らしなんて慣れっこですから……学校休んだりなんかしませんから……何言われても気にしませんから……だから心配いりませんから……」
彼女は気丈に振る舞っているつもりだろうが、彼女の肩の震えは一層増していた。
そうこうしているうちに、保健室へと着いた。ガラリと開くと、以前訪れたときと同じ無機質な光景が目に入った。
僕は彼女を下ろすと、扉をピシャッと閉める。そして戸の鍵を内側からかけた。
「桃瀬さん、正直に答えて下さい……」
僕のこの行動を不審に思ったのか、彼女は少し怯えた顔をつくった。
しかし、僕にはどうしても確認したいことがあった。それは、誰にも聞かれるわけにはいかなかった。
「あなた、わざと漏らしたんじゃないですか……?」
だが、それは本心だった。一般的に人の排泄物は汚いものとされているはず。しかし、自然と彼女のそれはそんな風に感じなかった。だからさっきも、彼女の湖に足を踏み入れたときも何の迷いもなかった。
「築月先生……!」
そんな中、ようやく群衆の中から一人の男性が飛び出した。青ざめた表情の校長先生だった。
意外だな、どうせ教頭先生が怒鳴りながら生徒を跳ね除けて向かってくるのかと思いきや。その理由はすぐ分かった。遠くの方で来賓の方々に必死に頭を下げ、何かを説明している彼女が見えた。想定外の事態に彼女もパニックになっているようだった。
「校長先生、僕のクラスの生徒が体調が優れないようなので、彼女を保健室に連れて行きます」
好都合だった。こう言っては何だが、今なら「うるさい」人はいない。時既に遅し、かもしれないが今なら桃瀬さんを助け出すことが出来る。
「分かった……よろしく頼むよ」
校長が首を縦に振ると、僕もまたそれに答え、渡り廊下へと歩き始めた。
生徒の輪はモーゼのごとく自然に割れていく。僕は躊躇なく歩いていたが、一人の生徒と目が合った。相手の男子生徒は、見なかったフリをするように視線を下に落としたが、僕は立ち止まり一言呟いた。自分の声とは思えない重苦しい、地獄からの使いの如き声だった。
「どうして近づこうともしない……上山。お前はこの娘の彼女じゃなかったのか? それとも……〝薬〟のことをバラされたくないのか?」
僕のその一言で、沢山の視線が上山へと集まった。初めて僕と顔を合わせたときと、同じ人間とは思えないくらい緊張し強張った表情をした上山は、僕の言葉を聞いた瞬間、かすれ声で「あ」と漏らした後、ヘナヘナとその場にへたり込んだ。
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秋とは思えない爽やかな陽の光が差し込む、人気のない廊下。気付けば時刻は九時半前。僕は歩くペースを早くした。後少しで一時間目が始まってしまう時間だ、もしかしたら生徒か帰ってくる可能性もある。
「ゴメンなさい、築月先生……また……しちゃって……」
頬を真っ赤に腫らした彼女は、僕の胸の中で恥ずかしそうにはにかんだ。彼女のオシッコの匂いが辺りを漂い始めたが、やはり嫌な気はしない。
「もう、先生の前で三回もお漏らししちゃいましたね……エヘヘ……」
彼女は自分の脚に付いたオシッコの跡を見つめながら、自嘲気味に笑う。
「で、でも……大丈夫ですから、先生。私……ちゃんと明日も学校来ますから。もう……お漏らしなんて慣れっこですから……学校休んだりなんかしませんから……何言われても気にしませんから……だから心配いりませんから……」
彼女は気丈に振る舞っているつもりだろうが、彼女の肩の震えは一層増していた。
そうこうしているうちに、保健室へと着いた。ガラリと開くと、以前訪れたときと同じ無機質な光景が目に入った。
僕は彼女を下ろすと、扉をピシャッと閉める。そして戸の鍵を内側からかけた。
「桃瀬さん、正直に答えて下さい……」
僕のこの行動を不審に思ったのか、彼女は少し怯えた顔をつくった。
しかし、僕にはどうしても確認したいことがあった。それは、誰にも聞かれるわけにはいかなかった。
「あなた、わざと漏らしたんじゃないですか……?」