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《59》【僕のジョボ女簿日誌】 「第一話 学園(エデン)は檻の中」(11)ー1 懇願

「……え?」

彼女の表情が一瞬で青ざめた。

「な、何言ってるんですか先生? 私は……我慢出来なかっただけで……」

先程のはにかんだ笑顔とは、比べ物にならないくらい嘘臭い笑顔。彼女は気付いていないつもりだが、顔を真っ青にして、わずかに手がブルブル震えている。

「トイレに行き忘れたって? ここ数日で二回も失敗した君が? 君はそんなバカじゃない」

不安に駆られた表情で僕を見つめる桃瀬さん。しかし、僕は彼女から目を逸らせず、静かな剣幕で問いを発し続けた。

「しかも二回目は見ていたのは僕だけとはいえ、一回目はトラウマ並のショックだったはず。僕だったら、数週間は休み時間の度にトイレに行くくらい過敏になるよ。授業に遅れてでもね」

保健室内に張り詰めた緊張感。どっちが先に声を出すかで結果が大きく変わってきそうな。自分から仕掛けておいて何だが、今すぐ誰か入ってきてほしい。

「……桃瀬さん、本当のことを教えてくれないかな?」

暫く無言が続くかと思われたが、すぐに桃瀬さん嗚咽を上げた。

「だって……」

彼女の両目から再び涙が溢れ始める。体育館のときとは比べ物にならない、大粒の雫が。

「私のせいなんです……教室でお漏らししたのも……黒板に落書きされたのも……あんな写真を撮られてしまったのも、全部私のせい……なのに、教頭先生は一方的に築月先生を悪者扱いして……こんなのおかしいです……本当に悪いのは私なのに、だから……」

だから漏らしたっていうのか。全校生徒見ているあの時間、あの場所で。下手したら、今後の学校生活に影響を及ぼすかもしれないのを分かってるのか。

「これは罰なんです。先生を巻き込んで、学校中に迷惑をかけた私の、自分への罰……だから、恥ずかしくなんてありません。お漏らしなんて……人間誰しもがしちゃうことだからーー」

「馬鹿野郎!!」

彼女の本心を全て聞いた瞬間ーー何故か無性に腹が立った。

「こんなことしても、俺は何も嬉しくねぇんだよ!! 自分への罰? 自惚れるのもいい加減にしろ!」

どうして僕はこんなに腹が立っているのか。彼女は僕のためにやってくれたんだ。自分の中の恥ずかしいという気持ちを押し殺してまで。それなのに、心の底から〝大人〟として怒りが収まらなかった。

「前にも言っただろ! 君は悪くないって! 悪いのは苦しんでいるのに気付かなかった自分だって!! なのに……どうして……」

僕の怒りの理由は二つ。一つは、他人のために自己犠牲の道を選んだことが正しいと思っている彼女への怒り、そしてもう一つは結局彼女のことを何一つ理解してあげられなかった自分自身への怒り。
僕は教師失格だ。先生とは、生徒を一人の人間として、正しく導くことが仕事だ。かといって、生徒も一人の人間である。真っ向から否定して相手の考えをねじ曲げては、それは教育ではなく命令になってしまう。だから、僕の口から出た言葉は「説教」でもなく「指導」でもなく「懇願」だった。

「お願いします……もうこれ以上、自分一人で抱え込まないで下さい……誰かのために自分を傷付けるなんて、止めて下さい……」

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プロフィール

Author:屈辱の湖
周りと違う僕はおかしいのだろうか。
こんな性癖誰にも理解されないのではないか。
どうやって新しいオカズを手に入れればいいのか。
分からぬまま悶々と欲望を募らせていましたがーーとうとう見つけました。僕のたぎる思いを満たすことが出来るのは、

〝少女のおもらし〟だと。

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