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《62》【僕のジョボ女簿日誌】 「第一話 学園(エデン)は檻の中」(11)ー4 失敗

あらかじめ台本が用意されていたような長い台詞をスラスラと喋り終えると、彼はキツく結ばれた唇を緩ませクスクスと笑みを浮かべた。
しかし、それはとても幸せを感じるものではなかった。まるでこの状況を楽しんでいるかのような、見てる僕が身震いする笑い声。普段笑わない人が笑うと怖いって、本当だったのか。
そんな僕にお構い無しに、彼は左手に握ったものを差し出してきた。

「矢行先生から渡されました。〝あなたには、この場を収める責任がある〟とね」

それは、ハンドマイクだった。壇上に置かれているものとはまた別の種類のもの。

「見せてもらいましょうか、あなたの手腕を」

それだけ言うと、敷島先生は腕組みをしながら壁に持たれかかってしまった。他の先生方のように生徒をなだめようとはせず、まるで、ただ高みの見物を決め込む野次馬のように。
いや、それとも後のことは全て僕に託したということなのか? その真意は読めそうもない。しかし、そんなこと考える暇はなかった。
僕はすぐさま舞台に上がり、校長先生へと近付く。生徒らも僕に気付いたようで、チラチラとこちらを見上げ始めた。

「築月先生……」

「校長先生……先程はどうもすみませんでした。どうなるか分からないですけど……僕、ちょっとやってみます」

突然この場を離れた者が、突然帰ってきたことに校長先生は何か言いたげな顔つきになった。しかしどうしたことか、フッと笑みを浮かべると僕に演台を譲ってくれた。
目の前には設置されたマイクがある。しかし、矢行先生からマイクと共に受け取ったこの思い無駄にするわけにはいかなかった。

「「皆さん!! 聞いて下さい!!!!」」

電源を入れたばかりのマイクにいきなり大声を張り上げたことで、音が割れキーンという嫌な電子音が体育館上に響いた。その場にいる全員が耳を押さえ、結果的に人のざわめきは収まった。
同時にステージ上の僕の存在も確認され、皆の視線が僕に集まる。

「……え〜と、皆様。僕は特別進学クラス1ー3組担任の築月太郎です。本当は僕のクラスの生徒がお騒がせしてしまい、本当に申し訳ございませんでした」

僕の頭の中で、昨日覚えた原稿の文章が浮かぶ
浮かぶ。僕はそれをーー思いっきり破ってやった。頭の中で。

「今日だけではありません。僕のクラスの黒板の落書き、そして昨日の……僕が写った写真、全ては僕の配慮の足りなさから起きたことです。本当にすみません」

指示された言葉で謝っても思いは伝わらない、僕の言葉で今の自分の思いをみんなに聞いてほしい。そう思ったのだ。

「ーー私はここ数日で幾つもの失敗を見てきました。生徒の教室での失敗、一人の男子生徒の失敗と成功、そして私自身も失敗しました。ですが前者と後者には大きな違いがあります、何か分かりますか? 前の二人は高校生、法律上から見ても世間一般の目から見てもまだ子供、失敗しても許される時期なんです。ですが私は大人、つまり失敗することは許されないんです。例えば、ここで私が粗相をしたらどうなるでしょう? 二度と教壇に立つことはないと思います」

体育館にこだまするのは僕の声のみ。皆が皆、僕の言葉に耳を傾けている。目を上に向けない者はいない。でも不思議と緊張はしなかった。

「ですが、彼女ーー僕の生徒は一度の失敗で深く傷付きました。これは彼女の気持ちになれば、仕方のないことです。ですがその理由は、一度醜態を晒してしまったことで、クラスメイトから蔑まれ、距離を置かれるようになったからです。どうしてそこまでされなくちゃいけないんでしょうか? それまでの彼女は、クラスの中心に立ち、嫌なことも進んで引き受ける、みんなのまとめ役だったのにーーもしかしたら、それが気に食わない人もいたかもしれません。ですが、それは一部の人間に過ぎません。大多数の人間は、一度失敗した人間を〝自分とは違う存在〟〝嫌悪すべき存在〟と、爪弾きにし始めたのです。本人らは隠してるつもりでも、彼女は気付いてるんです」

僕のクラスの生徒、取り押さえられた上山、不良の生徒ら、校長他教員の方々、学校関係者全員が今この場にいる。彼らを今の僕をどう見てるんだろう。熱に浮かれた若手教師の暴走? 問題教師の言い訳熱弁? それとも、ただの奇人変人?
イヤ、もう何でもいい。……みんな自分の出来ることを精一杯やってくれている。なら、僕も今やれることをやるんだ。

「私は彼女と二人きりで話をしました。彼女は自分が孤立していることに気付きながら、平静を装い心の涙を隠していました。僕の前でも涙を見せようとしませんでした。その姿を見て……恥ずかしながらとても美しいと思いました。オシッコにまみれようが関係ない、彼女は美しかったのです」

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プロフィール

Author:屈辱の湖
周りと違う僕はおかしいのだろうか。
こんな性癖誰にも理解されないのではないか。
どうやって新しいオカズを手に入れればいいのか。
分からぬまま悶々と欲望を募らせていましたがーーとうとう見つけました。僕のたぎる思いを満たすことが出来るのは、

〝少女のおもらし〟だと。

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