《63》【僕のジョボ女簿日誌】 「第一話 学園(エデン)は檻の中」(11)ー5 空気
- 2017/05/06
- 14:18
自分の顔が熱くなるのを感じた。だって彼女はまだ学生、しかも教え子だ。その彼女を美しいだなんて。自分の担当クラスの生徒の反応は見たくない。ていうか、見れない。
「私は自分が教師として優れているとは思いません。むしろ失格だと思います。今日だけじゃなく、以前も彼女が苦しんでいるのに気付いてあげられなかったから。彼女が疎外されていても察せられなかった。どうしてでしょうか? それは、僕が〝大人〟になってしまったから。自分のことで精一杯になってしまったから。担任であるにも関わらず、生徒に歩み寄ろうとせず、淡々と毎日を過ごしてきました。人の心を知ろうともしない、酷い大人になってしまったんです。ーー皆さんには、そんな大人になってほしくない。人の傷みが分かる人間になってもらいたい。そのために、失敗を恐れないでほしいんです」
僕は改めて、体育館の中にいる人達全員を見渡した。学校とは不思議な場である。人間としてまだまだ未熟なはずの子供達の方が、僕達大人よりもエネルギュシュで感情豊かで、未来に希望を持っている。僕達大人の殆どは、現実にやる気を削げ落とされた、量産型のロボットの様な存在だ。教えを請うとしたら逆な感じもする。しかしだからこそ、教えられることもあるはず。
「1ー6組の皆さん、担任でもない私がこんなこと言うのは筋違いかもしれませんが、普通の道から外れたいなら今のうちに思いっきり外れておきなさい。……上山君、君は許されないことをしたかもしれません。でも、今この場所で良かったーー大人になったらもっと大事になっていたかもしれないから。……みんなも、失敗してもいいんです! 汚い手を使って、欲しいものを手にしたっていいんです! 道を外れて『不良』と呼ばれてもいいんです! 人前で粗相したっていいんです!だって、子供は失敗する生き物なんだから! 学校は失敗するところなんだから!思いっきり失敗出来るのは、今だけなんです!ここは学校であって、社会ではないんだから! 」
◆◆
僕は大きく息を吐いた。
体育館は異様な空気に包まれていた。それもそうか、いつも通りの全校集会が始まるかと思いきや、気付けば新人教師の独演会のような状態になってしまっているのだから。まるで、嵐が過ぎ去ったような空気。話が終わったと分かっていても、誰も声を出せない。そんな沈黙を破ったのは、意外な人物だった。
「ケッ、何青いことぶっこいてんだ……」
体育館の後ろの方から、やたらと響く声が聞こえた。
「能書きたれやがって……『不良』と呼ばれてもいいだぁ? 結局はテメェも俺達を見下してんじゃねぇのか!?」
声を上げたのは、先生方に物怖じせず先陣を切って反抗の意思を見せていた不良グループの一人。よく見ると、裏庭で上山と一緒にいた生徒じゃないか。
「君達がそう思うなら、そうなのかもしれない。だったら見下されないように、一度努力をしてみたらどうかな? 例えば次のテスト、不本意かもしれないが、今は学歴がモノを言う時代だ。この学校も例外じゃない。〝今から頑張ってももうムリ〟なんて言わないで、失敗してもいいから少しでも努力をしてみるんだ。月並みな言い方かもしれないが、後悔するのはやった後だ」
不良らしい威圧感と鋭い眼光を舞台上の僕に向けてくる。
僕はーー不思議と怖くなかった。別に熱に浮かされていたわけではない。ただ何というか、嬉しかったのだ。自分の言葉、自分の思いに何でもいいから返事をしてくれたことが。
「ハッ……テメぇのその顔気に食わねぇな。自分が正しいと一ミリも疑ってねぇ、そのガキ臭ぇ顔だよ。イイぜ、その代わり次のテストで順位が上がったら、きっちり俺達の前で落とし前つけてもらわねぇとなぁ、先生?」
「私は自分が教師として優れているとは思いません。むしろ失格だと思います。今日だけじゃなく、以前も彼女が苦しんでいるのに気付いてあげられなかったから。彼女が疎外されていても察せられなかった。どうしてでしょうか? それは、僕が〝大人〟になってしまったから。自分のことで精一杯になってしまったから。担任であるにも関わらず、生徒に歩み寄ろうとせず、淡々と毎日を過ごしてきました。人の心を知ろうともしない、酷い大人になってしまったんです。ーー皆さんには、そんな大人になってほしくない。人の傷みが分かる人間になってもらいたい。そのために、失敗を恐れないでほしいんです」
僕は改めて、体育館の中にいる人達全員を見渡した。学校とは不思議な場である。人間としてまだまだ未熟なはずの子供達の方が、僕達大人よりもエネルギュシュで感情豊かで、未来に希望を持っている。僕達大人の殆どは、現実にやる気を削げ落とされた、量産型のロボットの様な存在だ。教えを請うとしたら逆な感じもする。しかしだからこそ、教えられることもあるはず。
「1ー6組の皆さん、担任でもない私がこんなこと言うのは筋違いかもしれませんが、普通の道から外れたいなら今のうちに思いっきり外れておきなさい。……上山君、君は許されないことをしたかもしれません。でも、今この場所で良かったーー大人になったらもっと大事になっていたかもしれないから。……みんなも、失敗してもいいんです! 汚い手を使って、欲しいものを手にしたっていいんです! 道を外れて『不良』と呼ばれてもいいんです! 人前で粗相したっていいんです!だって、子供は失敗する生き物なんだから! 学校は失敗するところなんだから!思いっきり失敗出来るのは、今だけなんです!ここは学校であって、社会ではないんだから! 」
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僕は大きく息を吐いた。
体育館は異様な空気に包まれていた。それもそうか、いつも通りの全校集会が始まるかと思いきや、気付けば新人教師の独演会のような状態になってしまっているのだから。まるで、嵐が過ぎ去ったような空気。話が終わったと分かっていても、誰も声を出せない。そんな沈黙を破ったのは、意外な人物だった。
「ケッ、何青いことぶっこいてんだ……」
体育館の後ろの方から、やたらと響く声が聞こえた。
「能書きたれやがって……『不良』と呼ばれてもいいだぁ? 結局はテメェも俺達を見下してんじゃねぇのか!?」
声を上げたのは、先生方に物怖じせず先陣を切って反抗の意思を見せていた不良グループの一人。よく見ると、裏庭で上山と一緒にいた生徒じゃないか。
「君達がそう思うなら、そうなのかもしれない。だったら見下されないように、一度努力をしてみたらどうかな? 例えば次のテスト、不本意かもしれないが、今は学歴がモノを言う時代だ。この学校も例外じゃない。〝今から頑張ってももうムリ〟なんて言わないで、失敗してもいいから少しでも努力をしてみるんだ。月並みな言い方かもしれないが、後悔するのはやった後だ」
不良らしい威圧感と鋭い眼光を舞台上の僕に向けてくる。
僕はーー不思議と怖くなかった。別に熱に浮かされていたわけではない。ただ何というか、嬉しかったのだ。自分の言葉、自分の思いに何でもいいから返事をしてくれたことが。
「ハッ……テメぇのその顔気に食わねぇな。自分が正しいと一ミリも疑ってねぇ、そのガキ臭ぇ顔だよ。イイぜ、その代わり次のテストで順位が上がったら、きっちり俺達の前で落とし前つけてもらわねぇとなぁ、先生?」