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《64》【僕のジョボ女簿日誌】 「第一話 学園(エデン)は檻の中」(11)ー6 有無

名前も知らぬその生徒は、獲物を見つけたトラの目のごとく鋭い眼光を見せながら笑った。その周りの取り巻きらも、戸惑いながらも同調するように頷いている。むしろ戸惑っていたのは、彼らの前に立ち塞がっていた教師らの方だった。

「ハハハハ……いい気になるなよ、築月ィ……」

今度は別の方向から声が上がった。自虐るような笑い声を上げながら、両腕を男性教員に取り押さえられている生徒会長・上山だった。整えられたその髪は、強風の中を歩いてきたかのようにボサボサになり、よく見ると制服が破れている。相当暴れたようだ。

「お前はただ自分の理想を他人に押し付けてるだけ、コイツらと同じさ。お前らは、勝手だ。自分達で勝手に人のイメージ受け付けて、思ってたのと違ったら離れていく。勝手に憧れて勝手に幻滅して……勝手に期待して、勝手に見損なって……勝手に……友達呼ばわりして……勝手に……人を推薦して……僕の気持ちなんて何も知らない癖に……誰も……誰も僕のぉぉぉォーーーー!!!!」

彼はとうとう、その端正な顔をクシャクシャに歪めて泣き出してしまった。その姿に〝学年一の秀才〟の面影は微塵もなかった。いくら大人びていても、いくら同級生に人気があっても、いくらみんなから期待を集められていても、彼もまた、一人の未熟な男子高校生に過ぎないのだ。
いやむしろ、それが全ての原因だったのかも。周りに期待されれば、それだけ答えたくなるのが人間の本質。しかし人間の願望には限りがない。一つ成功すれば、次の成功を求めようとする。彼はその全てに答えようとした、その結果落とし所を見失ってしまったのかも。
再び錯乱し始めた上山は、両腕を押さえつけられたまま出入口へと連行されて行った。その姿を見て、彼を哀れむものは少なかった。その殆どの人間が、〝幻滅〟〝失望〟〝落胆〟といった気持ちを携えた瞳で、彼を見送った。
その状況を見て、僕は上山が可哀想なやつと思うと同時に、彼に話かけてやりたいとも思った。
『君は失敗したかもしれない、でも学校という檻の中だけで良かったよ』と。

「築月君、そこまでだよ」

連れて行かれる上山の様子を見届けていたため、一瞬校長先生の返事に遅れた。
どうやらここまでのようだ。僕は一礼をすると、校長先生に演台を譲った。校長は普段の親しみやすい顔ではなく、有無を言わさぬ指導者の顔付きで皆の前に立った。

「……え〜、委員長は自分のクラスの生徒を連れて教室に戻りなさい。急遽ではありますが、一時間目は各自自習時間と致します。先生方は至急職員室へとお集まり下さい、以上」

こうして、僕の人生で最も長い全校集会は終わった。

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Author:屈辱の湖
周りと違う僕はおかしいのだろうか。
こんな性癖誰にも理解されないのではないか。
どうやって新しいオカズを手に入れればいいのか。
分からぬまま悶々と欲望を募らせていましたがーーとうとう見つけました。僕のたぎる思いを満たすことが出来るのは、

〝少女のおもらし〟だと。

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