《67》【僕のジョボ女簿日誌】 「第一話 学園(エデン)は檻の中」(12)ー3 写真
- 2017/05/10
- 00:34
予想もしなかったその言葉に、僕の心は少し揺らいだ。一瞬嘘かと思ったが、今の上山にそんなこと言える余裕があるとも思えない。
「どういうこと……?」
嫌な予感がする。この感覚は何度も覚えがある。そしてこの予感は、恐ろしい程に当たる。
「手紙が入ってたんだよ、僕の靴箱に。彼女を……桃瀬を手に入れる良い方法があるって……僕はそれを実践してみただけなんだ……まさか本当に上手くいくなんてな……」
「ーーちょっと待て」
僕は大きく目を見開いた。それは何というか、つまりそのまさか。
「じゃあ……黒板の落書きは……」
「当たり前だ。僕じゃない。ていうか、出来るわけない。あの日は、あの時間僕はまだ登校すらしていなかったんだから」
それから上山が口を開くことはなかった。ただ、この世界の終わりのごとく狼狽しきっており、その姿に一抹の疑問を感じた。
◆◆
「まぁ、退学でしょうな」
指導室を出た僕は、敷島先生と並び職員室へと戻った。道すがら、彼はこんなことを言い始めた。
「彼が犯した誤ちは他にもありましてね、実はカンニングが発覚したのですよ。前学期に行われた期末テストを始め、その前の中間テスト、さらには中学時代も行っていたとか。あ、これはまだ内緒にしてもらいたいのですが、中学入試も彼は裏口で入ったらしいです。本当かどうかはまだ判明していませんが、恐らく事実でしょう。まぁ、聞くところでは彼の父親は地元の有力議員らしいので、騒ぎになる前に離れてーー」
「敷島先生、お話があります」
僕は廊下の真ん中で立ち止まり、話し掛けると彼は振り返った。無表情ではあるが、真っ黒の透き通った瞳は笑っているようにみえる。
「……上山君の件について、何か知っているのではないですか? ……それとも、何かしたのではないですか?」
僕のその質問に彼は訝しげな目を向けてきたが、一瞬の沈黙のあと口元を三日月状にしてクックックッと不敵に笑った。
「あのときは気付きませんでしたが、体育館で僕が上山君に話しかけたとき、彼は既に何かに怯えている感じでした。そして僕が出て行った後、暴れ出した。それっておかしいですよね?だって〝薬〟よりも〝カンニング〟の方が知られたくない秘密だと思います。勿論、それはそれでいけませんが、僕の言葉に彼を混乱させる内容はなかったはずです」
僕の考えを一通り聞き終わると、彼は挑戦的な目を向けながら内ポケットから何かを取り出した。二枚の写真だった。
「人聞きが悪いですよ。私は何も……ただ、この写真を彼に渡しただけです」
僕はその写真を受け取った。一枚目の写真に映っていたのは、学校の校舎の一部。職員室だろうか。薄暗いところを見ると、夜の写真か。窓ガラスの外から内部を映しているが、教師の姿は見えない。しかし、学校の制服に身を包んだ一人の男が映っていた。少し輪郭がボンヤリしているが、顔はハッキリと判別出来る。
「上山君です。そしてもう一枚は」
「どういうこと……?」
嫌な予感がする。この感覚は何度も覚えがある。そしてこの予感は、恐ろしい程に当たる。
「手紙が入ってたんだよ、僕の靴箱に。彼女を……桃瀬を手に入れる良い方法があるって……僕はそれを実践してみただけなんだ……まさか本当に上手くいくなんてな……」
「ーーちょっと待て」
僕は大きく目を見開いた。それは何というか、つまりそのまさか。
「じゃあ……黒板の落書きは……」
「当たり前だ。僕じゃない。ていうか、出来るわけない。あの日は、あの時間僕はまだ登校すらしていなかったんだから」
それから上山が口を開くことはなかった。ただ、この世界の終わりのごとく狼狽しきっており、その姿に一抹の疑問を感じた。
◆◆
「まぁ、退学でしょうな」
指導室を出た僕は、敷島先生と並び職員室へと戻った。道すがら、彼はこんなことを言い始めた。
「彼が犯した誤ちは他にもありましてね、実はカンニングが発覚したのですよ。前学期に行われた期末テストを始め、その前の中間テスト、さらには中学時代も行っていたとか。あ、これはまだ内緒にしてもらいたいのですが、中学入試も彼は裏口で入ったらしいです。本当かどうかはまだ判明していませんが、恐らく事実でしょう。まぁ、聞くところでは彼の父親は地元の有力議員らしいので、騒ぎになる前に離れてーー」
「敷島先生、お話があります」
僕は廊下の真ん中で立ち止まり、話し掛けると彼は振り返った。無表情ではあるが、真っ黒の透き通った瞳は笑っているようにみえる。
「……上山君の件について、何か知っているのではないですか? ……それとも、何かしたのではないですか?」
僕のその質問に彼は訝しげな目を向けてきたが、一瞬の沈黙のあと口元を三日月状にしてクックックッと不敵に笑った。
「あのときは気付きませんでしたが、体育館で僕が上山君に話しかけたとき、彼は既に何かに怯えている感じでした。そして僕が出て行った後、暴れ出した。それっておかしいですよね?だって〝薬〟よりも〝カンニング〟の方が知られたくない秘密だと思います。勿論、それはそれでいけませんが、僕の言葉に彼を混乱させる内容はなかったはずです」
僕の考えを一通り聞き終わると、彼は挑戦的な目を向けながら内ポケットから何かを取り出した。二枚の写真だった。
「人聞きが悪いですよ。私は何も……ただ、この写真を彼に渡しただけです」
僕はその写真を受け取った。一枚目の写真に映っていたのは、学校の校舎の一部。職員室だろうか。薄暗いところを見ると、夜の写真か。窓ガラスの外から内部を映しているが、教師の姿は見えない。しかし、学校の制服に身を包んだ一人の男が映っていた。少し輪郭がボンヤリしているが、顔はハッキリと判別出来る。
「上山君です。そしてもう一枚は」