《69》【僕のジョボ女簿日誌】 「第一話 学園(エデン)は檻の中」(12)ー5 視線
- 2017/05/11
- 12:09
「まぁ、よろしいじゃないですか。これで桃瀬さんへの見えないイジメは無くなるでしょうし、伊庭先生の言う理想の学園へと近付きます。一件落着ですね」
確かに表面上はそういうことになる。でも違う。何かが違う。こんな結末は望んでない。青臭い言葉に聞こえるが、僕は誰も悲しまない結末を望んでいた。しかし、それがどうだ。桃瀬さんは皆の前で醜態を晒し、上山は今まで築き上げたものを最も罪悪な形で壊してしまった。結局喜んでいるのは、自分と同じ大人達のみ。
こんなのおかしい。誰が見ても、誰が聞いてもおかしい。
ーーでも僕には何も出来ない。イヤ、むしろやり過ぎてしまっている今の状況で、これ以上のことは。
この人はそれを分かっている人だ。その上で、自分の正当性を主張している。その牙城を打ち崩すことは出来ない。
「では、何かありましたら、いつでも声をかけて下さい。私はあなた方の味方のつもりですから」
僕が黙り込んでしまったのを見て、敷島先生は話を切り上げ、再び歩き出した。僕はそれを見送ることしか出来なかった。
◆◆
すっかり陽が落ちた帰り道。どこかの犬の遠吠えが聞こえる。住宅街の歩道を歩いているのは僕ただ一人。
本当に今日は怒涛のように一日が過ぎていった。しかし、僕はとても安堵の表情を浮かべられる状況ではなかった。僕(とクラス)としては、元の生活が戻ろうとしているが、結局黒板落書きの犯人は見つかってない。教頭には完全に目を付けられてしまったし、生徒の中には僕のことを何かと話題に出す者もいるという。今後の学園での教師生活、今まで通りとはいかないかもしれない。
『あなたはいつも悩んでるわね』
通り過ぎようとした電柱の陰から、人影が現れたことに気付く。
不敵な笑みを絶やさず僕を見つめているのは、漆黒のゴスロリドレスを優雅に着こなす一人の少女。住宅街の背景とはミスマッチなのに、何故かそこだけ別空間に見えてしまう迫力があった。
「……操華ちゃん」
昨日の夜と変わらぬ服装だった。僕よりも背はずっと低いのに、明らかな上から目線で自分を見下している。僕が気付いたと分かった途端、彼女は鼻を鳴らしながら腰に手を当てる。
『悩むことを止めたら? そしたらもっと色んなものが見えてくるわよ。あなたは、目の前の問題を全て解決しようとする。そのクセ誰よりも傷付きやすく、引きずりやすい。向いてないのよ、先生なんて』
「何しに来たんだよ」
彼女はいつも核心を突いてくる。子供のときと何も変わってない。図星をつき、まるでその人を試すような物言いをしてくる。その性格が反感を呼び、友達が離れていったことも一度や二度ではない。でも彼女はそれを直すどころか、その言葉の切れ味を鋭くしていった。その度に僕は、ムッとした思いを抑えていた。だって彼女が好きだったから。それなのに。
「久し振りに会えたのに、どうしてそんなことばっかり言うんだよ! 僕には僕の人生があるし、操華ちゃんにはカンケーないよ!! もう放っておいてくれ!!」
確かに表面上はそういうことになる。でも違う。何かが違う。こんな結末は望んでない。青臭い言葉に聞こえるが、僕は誰も悲しまない結末を望んでいた。しかし、それがどうだ。桃瀬さんは皆の前で醜態を晒し、上山は今まで築き上げたものを最も罪悪な形で壊してしまった。結局喜んでいるのは、自分と同じ大人達のみ。
こんなのおかしい。誰が見ても、誰が聞いてもおかしい。
ーーでも僕には何も出来ない。イヤ、むしろやり過ぎてしまっている今の状況で、これ以上のことは。
この人はそれを分かっている人だ。その上で、自分の正当性を主張している。その牙城を打ち崩すことは出来ない。
「では、何かありましたら、いつでも声をかけて下さい。私はあなた方の味方のつもりですから」
僕が黙り込んでしまったのを見て、敷島先生は話を切り上げ、再び歩き出した。僕はそれを見送ることしか出来なかった。
◆◆
すっかり陽が落ちた帰り道。どこかの犬の遠吠えが聞こえる。住宅街の歩道を歩いているのは僕ただ一人。
本当に今日は怒涛のように一日が過ぎていった。しかし、僕はとても安堵の表情を浮かべられる状況ではなかった。僕(とクラス)としては、元の生活が戻ろうとしているが、結局黒板落書きの犯人は見つかってない。教頭には完全に目を付けられてしまったし、生徒の中には僕のことを何かと話題に出す者もいるという。今後の学園での教師生活、今まで通りとはいかないかもしれない。
『あなたはいつも悩んでるわね』
通り過ぎようとした電柱の陰から、人影が現れたことに気付く。
不敵な笑みを絶やさず僕を見つめているのは、漆黒のゴスロリドレスを優雅に着こなす一人の少女。住宅街の背景とはミスマッチなのに、何故かそこだけ別空間に見えてしまう迫力があった。
「……操華ちゃん」
昨日の夜と変わらぬ服装だった。僕よりも背はずっと低いのに、明らかな上から目線で自分を見下している。僕が気付いたと分かった途端、彼女は鼻を鳴らしながら腰に手を当てる。
『悩むことを止めたら? そしたらもっと色んなものが見えてくるわよ。あなたは、目の前の問題を全て解決しようとする。そのクセ誰よりも傷付きやすく、引きずりやすい。向いてないのよ、先生なんて』
「何しに来たんだよ」
彼女はいつも核心を突いてくる。子供のときと何も変わってない。図星をつき、まるでその人を試すような物言いをしてくる。その性格が反感を呼び、友達が離れていったことも一度や二度ではない。でも彼女はそれを直すどころか、その言葉の切れ味を鋭くしていった。その度に僕は、ムッとした思いを抑えていた。だって彼女が好きだったから。それなのに。
「久し振りに会えたのに、どうしてそんなことばっかり言うんだよ! 僕には僕の人生があるし、操華ちゃんにはカンケーないよ!! もう放っておいてくれ!!」